臭いものに蓋

前回の断酒会例会のディスカッションの場で、
飲酒欲求の悪魔から逃れるように藁をもつかむ思いで入会したという人の発言の後に、
「七さんはどんな思いで断酒会に入会しました?」と聞かれた。
「精神科病院を退院したら単純に断酒会かAAのどちらかに入るものだと思っていました」
「地元の小学校を卒業したら何の疑いも無く中学校に入学するのと同じ感覚でした」
「実は断酒会の存在すら知りませんでした」と答えた。
精神科病院入院経験のある人は俺みたいなケースが少なくないと思う。

精神科医の勧めもあって、退院した次の月には断酒会に入会した。
義務教育の児童生徒のように、週に2~3回例会に本気で通った。
だが、1年経っても2年経っても飲酒欲求は起きることは無かった。
アルコール依存症について書籍やネットで理論武装したり、他の人の体験談を聞いたりして、
いつ襲ってくるかわからない飲酒欲求を恐れるがごとく、もしもの事態のために備えた。

退院して半年も経つと、例会に通いながらも仕事や家庭生活は以前のように戻っていく。
俺の周りを取り巻く環境もコミュニティーも、飲酒に関すること以外は元通りに近くなる。
そうなると、断酒会のことばかり考えていられなくなる。
俺の「酒」によって迷惑をかけた人たちへの罪滅ぼしと信頼回復のほうが先に立つ。
それに、肝硬変と肝細胞癌になってしまった以上、早死にの覚悟はできているが、
これ以上、酒ごときで迷惑をかけ掛けたくないので、死期が迫っても飲むことは無いだろう。

自助グループ活動は、アルコール依存症回復のための1つの手段に過ぎず、
断酒会で生計を立てているわけではないので、優先順位としては徐々に下がっていく。
「病気」という括りの中でも、俺には肝硬変と肝臓がんがあるので、
「酒を飲んだら肝臓の爆弾が破裂して死ぬ」という恐怖心のほうが勝っている。
「また酒を飲みたくなったらどうしよう」なんて考える余裕は無いのだ。

例会のディスカッションの中で、アルコール依存症を発症するまでの経緯や、
ピーク時に飲酒が止まらなくなった時の気持ちについては発言できるが、
人それぞれ性格も仕事も家庭環境も違うので、回復方法については助言できない。
アドバイスや薬の処方は精神科医や専門家に任せれば良い。

入会当初から思っていることだが、「俺は断酒会員です」と公言できる勇気がない。
内臓疾患や大ケガは人から心配されるが、精神疾患は毛嫌いされたり「臭いものに蓋」とされがちだ。
依存症を始めとする精神疾患全般は、徐々に認知されつつあるがまだまだ差別の対象にある。
特に固定観念で凝り固まった高齢者の前では絶対禁句である。
健常者マウントを取りたがる人にとっての我々依存症者は「キ〇ガイ」なのだ。
自業自得ではあるが、我々は常にコンプレックスと戦っている。
「風邪気味」みたいに、「依存症気味」と、ライト感覚で扱ってもらえると気持ちも楽なのだが。

無理か。


つづく。


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